2013年1月31日木曜日

日本経済上昇の予感

今年の正月は、映画『シェフ』を見に行った。

そういえば、去年の正月に見に行った映画は『エルブリの秘密 世界一予約の取れないレストラン』だった。

偶然にも2年連続で、正月にレストランや食がテーマの映画を見に行ったことになる。

レストランや食がテーマとなった映画は多いが、この2作品は共に高級レストランを題材とした、珍しい映画である。
しかも、ジャン・レノ演じるシェフは、エルブリのフェラン・アドリアが一世を風靡した、食材を泡状にするエスプーマや最先端の分子料理に見向きもしない。

映画では、痛烈な風刺、アイロニーとなって、化学の実験室のような分子料理のプレゼンテーションとしてそれらが現れる。

まるで1年前に公開された、『エルブリの秘密 世界一予約の取れないレストラン』に対抗するかのような映画だ。

映画監督やスタッフたちは、三ツ星レストラン「アルページュ」のアラン・パッサールやアラン・デュカス、ピエール・ガニェールといったスターシェフの厨房に足を踏み入れて、取材をしたらしい。

監督はアラン・デュカスの厨房で、グリーンピースのコンソメスープを運良く試食できたという。
その幼少時の記憶を喚起する美味が、人々を感動させる料理の人間味を描く映画となった。

『シェフ』は、銀座テアトルシネマで鑑賞した。
銀座テアトルシネマが入っているビルは、ホテル西洋銀座の建築である。
素晴らしい日本のホテル文化を創り出していた、あの、ホテル西洋銀座だ。

銀座の片隅に佇み、隠れ家に入るようにフロントに上がる、独特な趣が忘れられない。
本物の高級感を、あのように演出したホテルは、日本ではこれからは出現しないだろう。

ホテル西洋銀座は、そのテイストとは正反対のビジネスホテルとして、別資本で生まれ変わるという。

設計者である菊竹清訓も、亡くなってしまっている。

黒川紀章とともにメタボリズムを牽引した、建築家・菊竹清訓の作品の中では重要度が低い作品かもしれないが、私は好きな建築である。
建築の外観は残るかもしれないが、中身が全く変わってしまうことは大きな残念だ。

銀座という一流の立地に対し、本物の高級感を文化として創出し、日本に根付かせようとしたのがホテル西洋銀座だったと私は考える。

彫刻家・脇田愛二郎の、錆びた鉄板を使ったレリーフが客室に飾られてあったように。

だからこそ、吉兆が出店しているのだろう。


この挑戦は、商業という名を借りた文化創出であった、と言うのは言いすぎであろうか。
いや、私を含めて、その幻影を今でも追い求めている人間は、確かに少なからず存在する。

バブル崩壊以降の失われた20年を経て、デフレスパイラルに陥ってしまった日本に文化を語る資格はないのだろうか。
アートを鑑賞しに美術館に足を運ぶよりも、目の前の100円ハンバーガーに手を伸ばしてしまう。

そのような、暗い沈滞した世相が、いよいよ方向転換をしそうな予感がする。
予感、というよりは、確実に世の中は上昇ムードに染まりつつあるのだ。

政権が変わり、経済上昇を演出しているのだろうか。
仮に演出であり、その後の落ち込みが予想されたとしても、この気分により明るい日本に少しでも長く導けるのならば、私は良いことであると考える。

その杞憂を払拭するくらいの、メセナに終わらない本物の文化創出を生み出したいと考えているのは、私だけではなく全てのアーティストの想いである。

再び、ホテル西洋銀座のような、洗練されたバトラーサービスを受けたいと思っているのも私だけではないだろう。

参考文献
『シェフ』パンフレット 発行 東京テアトル株式会社